【物理】【院試】院試対策と参考書

 先日院試を終えたうぇいぱーです。

 僕の院試対策を紹介します。また、学部物理の勉強や院試勉強などをしていく中で読んだ、もしくは読もうとした物理学・数学の参考書を主観的に評価しました。

 その前に軽く自己紹介します。

 

筆者:うぇいぱーについて

 

 できるだけ読者の皆さんの参考になるように書くつもりですが、まぁ僕が書きたくて書いているのでご容赦ください。ネットを探せば合格体験記なんて山ほどあるので真剣に情報が欲しい方は僕も参考にしたこちらのサイトもおすすめです。

【院試物理】おすすめ勉強法・参考書 まとめ【東大院試】 | 凡才たぬきの物理

 でもよかったら僕の記事も読んでね。

 

目次

 院試対策向けの本には(院)と記しています。もちろんこれらの教科書は普段の勉強でも使えます。評価は物理で役に立つか、面白いかという観点で☆0(最低)~☆5(最高)で付けました。

  1. 院試勉強のおおまかな流れ
  2. 物理数学
  3. 力学
  4. 解析力学
  5. 熱力学
  6. 電磁気学
  7. 統計力学
  8. 量子力学
  9. 物性
  10. 相対論
  11. 宇宙論
  12. 場の量子論
  13. さいごに

 

1.院試勉強の大まかな流れ

2月:学部1年で熱力学を学んだが全然分からなかったので清水熱力学を読む。立教(夏)の過去問を1年分程やって時間無制限なら5割くらいとれると思い慢心する。

3月:引き続き清水熱力学を読み、13章まで読み終わる。立教(春)の過去問をやってあまりにも解けず絶望する。J.J.サクライ『現代の量子力学』を読み始めるが、1章が難しくて断念する。同『演習現代の量子力学 J.J.サクライの問題解説』も1章で断念する。TOEIC対策で単語帳を覚え始める。

4月:卒論ゼミが始まり、主にSchutz "A first course in general relativity"で相対論、Ryden "Intoroduction to cosmology"で宇宙論、坂本場の量子論を学び始める。卒論ゼミの輪講の準備に慣れず、院試勉強はほとんどできなかった。TOEICを受験し625点を取る。

5月:本格的に立教の過去問を解き始める。(ほぼ合格者のいない)内部進学用の面接でコテンパンにされたのがきっかけで院試へのやる気が高まる。この面接対策のため黒体輻射について復習し、重力波の勉強をした。(出題されなかったけど。)

6月:立教過去問演習。立教大は10年分解いた。フーリエ変換、Green関数と留数定理について復習。京大と総研大の院試日程が被っていることに気づき、慌てて京大の最新の過去問を1年分、総研大の過去問を2年分解く。京大を蹴ってまで総研大にしなくてもいいかと思い、京大を受験することを決める。志望理由書を書くが、想定より時間がかかって焦る。力学で慣性モーメントが何かも説明できないほど剛体が苦手だったので、兵頭俊夫『考える力学』の剛体を総復習した。

7月:立教過去問演習。立教大の過去問10年分の2週目。2週目なのに解けない問題があって焦るが、丁寧に講義ノートと教科書で復習。また電磁気学量子力学が苦手だったので、その2科目は学部の演習の授業の問題を全て解きなおした。立教大合格。院試後はしばらく期末試験のため一般相対論を勉強。期末試験後に京大院試対策開始。

8月:京大過去問演習。京大は4年分くらい解いた。東工大は試験直前に午前の問題を1年分解いた。立教のおさえのつもりだったので舐めプである。砂川重信『理論電磁気学』で電磁波の放射について復習。東工大、京大院試後、伊藤正人『ファーストブック 量子力学がわかる』を読み始める。面接対策のため、黒体輻射の復習。

9月:量子力学と相対論を並行して勉強。東工大不合格、京大合格。

(注)過去問演習とは以下のことを指します。

1.時間無制限で自分が解けるところまで解ききる。

2.解けなかった問題は問題集の類題や教科書を読む→本を閉じて自力で解く。解けなかったらその都度問題集や教科書を読み返す→また本を閉じて自力で解く、を何も見ずに自力で解けるまで繰り返す。(正直な話、解けなかった院試問題で理解を諦めたものもあります。)

3.解けなかった問題を類題を参考に解く。

4.(2周目)時間制限を付けて解く。

 

2.物理数学

  • 論理と集合から始める数学の基礎、嘉田勝、日本評論社
    ☆0    ほぼ未読。数学科向け?非常に厳密に数学を展開するためには必要だし良い本だが、物理には要らない。
  • ヘンテコ関数雑記帳、佐々木浩宣、共立出版
    ☆?    ほぼ未読。物理には要らないけど、ランベルトのW関数を使うと空気抵抗がある時に最も遠くに投擲するための角度を示せるのは面白かった。
  • (院)物理数学の応用技法、大谷俊介、プレアデス出版
    ☆5    一度他の物理数学の教科書や授業でしっかり勉強した人向けの非常にしっかりしたまとめノート。少し忘れてるくらいならこれを読めば思い出せるし、物理ですぐに使える数学が簡潔にまとめられててとても良い。全部丸暗記しても良い。
  • 数学で物理を、武部尚志、日本評論社
    ☆?    ほぼ未読。ベクトル解析の勉強に買ったけど講義ノートで十分だったので読んでない。今少し見てみると微分形式の話が載ってたので少し興味が湧いた。
  • (院)入門微分積分、三宅敏恒、培風館
    ☆4    学部1年の微分積分で指定された教科書。重積分偏微分など、大学物理数学で重要な微分積分を十分学べる。無限級数の収束半径も載ってて、立教院試では出なかったけど、東工大院試では出題されるからやっとくといいと思う。
  • 線形代数学、佐武一郎、裳華房
    ☆3    線形代数の勉強はこれをやれば数学科レベル。とても良い本だが、難しい。他の教科書で線形代数を勉強して、納得いかなかったり証明が気になる人向け。
  • 線形代数[改訂版]、長谷川浩司日本評論社
    ☆3    先輩の勧めで購入。半分くらいまで読んだ。2×2行列で具体的に説明してくれるので、具体例を追い手で計算しながら勉強するのに良いと思う。ジョルダン標準形まで載ってるのが◎
  • (院)手を動かして学ぶ線形代数、藤岡敦、裳華房
    ☆4    学部1年の線形代数の指定教科書。分かりやすいし一番最初に学ぶのに良さそう。演習問題にも重要事項があるので演習まで手を抜かないこと。解法が思いつかないので始めは答えをすぐ見たほうが良いだろう。
  • 代数学1群論入門、雪江明彦、日本評論社
    ☆3    Twitterで知り合った数学科生に教えてもらった。物理で必要な群論は講義で教わったので、この本ほどのレベルは物理には必要なさそう。でも面白い。ちゃんとした数学の教科書なので証明もしっかり書いてある。入門用だが、僕には難しい。
  • (院)解析学概論、矢野健太郎・石原繋、裳華房
    ☆5    これ一冊で大学の物理数学1~3の授業(微分方程式、ベクトル解析、複素関数フーリエ変換)はほぼ網羅している。入門者にも易しい。

 

3.力学

  • (院)考える力学、兵頭俊夫、学術図書出版
    ☆4    解析力学を使わない、大学に入って微分積分外積を使った力学をやるならおすすめ。読みやすいし、入試頻出問題の考え方を学べる。特に角運動量と慣性モーメントの範囲は入試に頻出なので、高校で簡単な微積をつかった力学をやった人でもこの範囲はちゃんとやるべし。
  • (院)詳解力学演習、後藤憲一・山本邦夫・神吉健、共立出版
    ☆5    入試にはこの本にない問題は出ないと言ってよい。辞書。解説はやや分かりにくい。とにかく問題数が多いので全部解くような問題集ではないが、演習をしてて分からなかったら調べるスタンスでやると良い。

 

4.解析力学

  • 力学、ランダウ・リフシッツ、東京図書
    ☆4    学部2年の解析力学の指定教科書。初めて読んだ時は難しすぎて全然読み進められなかったけど、今読むとまあまあ読める。解析力学ラグランジアンを使うおかげで普通の力学より運動方程式を立てるのが楽で素晴らしい。

 

5.熱力学

 (熱力学はあまり院試にでません。面白いんだけどねぇ......)

  • 物理学講義熱力学、松下貢裳華房
    ☆1    学部1年の熱力学の指定教科書。高校の熱力学。熱力学の考え方が全く分からない。僕はこれをやっても手は動くけど問題は解けなかった。
  • 熱力学の基礎Ⅰ・Ⅱ、清水明東京大学出版会
    ☆5    めちゃくちゃ面白い。高校や学部1年で熱力学を学んだ時に熱力学が全然分からなかったのにこれを読んですっきりした。ただ、公理論的な進め方をするので公理の理解が難しく、温度が出てくるのが本の中盤という異質な教科書。でもそれに耐えるだけの価値は十分すぎるほどある。

 

6.電磁気学

(電磁気学のききどころ?しらないなぁ......)

 

7.統計力学

  • (院)統計力学Ⅰ・Ⅱ、田崎晴明培風館
    ☆4    学部3年の統計力学の指定教科書。講義ノートで十分だったのであまり読んでいない。場の量子論を少しかじって院試が全て終わってから黒体輻射のページを読むと鳥肌が立つほど面白い。電磁場を量子化することで電磁場を量子調和振動子とみなせて黒体輻射を記述できるのか...
  • (院)大学演習熱学・統計力学、久保亮五、裳華房
    ☆2    この本に載ってない問題は院試に出ないと言われるが、難しすぎてそもそもこの本に載ってるレベルの問題も院試に出ない(京大を除く)。辞書。授業で十分統計力学を理解できたのであまり読んでいない。

 

8.量子力学

 量子力学は正直何を勉強したらよいかよく分かりません。物理の問題というよりは量子力学に関する計算の問題(交換関係、線形代数の特に固有値問題微分方程式等)ができればよいという印象があります。

  • (院)新版量子論の基礎、清水明サイエンス社
    ☆4    学部3年の量子力学1の指定教科書。演算子形式で初めて量子力学を勉強するのに良い。公理論的で本質を理解できる。演算子形式なら量子情報とかの有限自由度・離散固有値の系に非常に強い。始めは縮退なしで勉強して、2周目以降に縮退ありの場合で勉強しなおすと良いと思う。(最近の院試の量子力学演算子形式、有限自由度系の量子情報関連の問題も増えてきている。波動形式の猪木川合などだけで院試に臨むのは危険だと思う。)
  • (院)現代の量子力学上・下、J.J.サクライ、吉岡書店
    ☆3    とても良い本だと思うが、難しくてあまり読んでいない。演算子形式。シュテルンゲルラッハの実験から入るので難しい。調和振動子を生成消滅演算子で解く方法はこれで勉強しよう。
  • (院)演習現代の量子力学 J.J.サクライの問題解説、大槻義彦監修・飯高敏晃著、吉岡書店
    ☆2    ジャンル分けされていないので辞書としては使いにくい。前の問題を使って次の問題を解くことが多く、その問題だけで完結していないので読みづらい。院試にはあまり出ない問題が多い印象。
  • (院)量子力学1・2、猪木 慶治・川合 光 、KS物理専門書
    ☆3 良い本だと思うが、難しい。古い院試ではここに載ってる問題がそのまま出たりする。過去問で波動形式の解けない問題があったらとりあえずこれを見る。
  • (院)ファーストブック 量子力学が分かる、伊藤正人、技術評論社
    ☆5 めちゃくちゃ分かりやすい。計算できるようになるだけでなく、物理が見えるようになる。式変形の計算も丁寧に書いてあるし、数式の意味も解説してくれる。波動形式で勉強するならまず始めにこれを読めばいいと思う。院試で頻出する有限井戸型ポテンシャルの束縛問題やトンネル効果も詳しく解説している。院試前に読めばよかった...

 

9.物性

  • 物質科学の基礎 物性物理学、溝口正、裳華房
    ☆?    学部3年の物性概論の参考書として購入。読んでない。

 

10.相対論

  • 相対性理論の考え方、砂川重信、岩波書店
    ☆2    学部1年の特殊相対論の授業の為に購入。線形代数を学んだ今となっては使い道はない。シュッツの特殊相対論で十分。だが今読むと考え方を学ぶ上ではまとまってて意外と悪くないかも。
  • 相対性理論入門講義、風間洋一、培風館
    ☆2    上記と同じ。
  • A First Course in GENERAL RELATIVITY、Bernald Schutz、CAMBRIDGE UNIVERSITY PRESS
    ☆4    学部4年の宇宙研ゼミで購入。初心者にも分かりやすい。細かいところまで丁寧に書いてあるが、佐々木さんやWaldの教科書に載っているような、リー微分などが載っていなくて物足りない。
  • 相対性理論、David McMahon、プレアデス出版
    ☆3    図書館で借りた。シュッツで足りなくて佐々木さんの教科書で分からない、かゆいところに手が届く本。非座標基底(非ホロノミック基底)がテトラッドだと知った。キリングベクトルについても載ってて良い。
  • 一般相対論、佐々木節、産業図書
    ☆1 学部4年の相対論の授業で使った。行間が広いなんてものじゃなく、ほぼ計算は載ってない。初めて読むには不向き。
  • General Relativity、Robert M. Wald、University of Chicago Press
    ☆? 学部4年の相対論が分からなさ過ぎて、シュッツを読んでも分からないときにちょっとだけ読んだ。僕の指導教員は激ムズだと言っていた。

 

11.宇宙論

  • Introduction to cosmology、Barbara Ryden、Cambridge University Press
    ☆3    学部4年の宇宙論のゼミで購入。宇宙論について広く浅く書いてある。数学や考え方が詳しく書かれていないのが良くない。物理学科4年生向けNewton。

 

12.場の量子論

  • 場の量子論 不変性と自由場を中心にして/場の量子論(Ⅱ) ファインマン・グラフとくりこみを中心にして、坂本眞人、裳華房
    ☆3    ちゃんとやればいい本なのかもしれないが、説明が冗長で何が本質なのか分かりにくい。場の量子論の特徴だと思うが、前の章の計算ができないと次の章で何を言っているか、計算を追えなくなる。第二量子化はちゃんと理解したい。重力理論の研究室所属なので相対論ばっかりやってきたが、素粒子論研究室に進学するならちゃんとやりこみたい。

 

13.さいごに

 ここまで読んでくれた読者の皆さん、本当にありがとうございます。大学院を目指す皆さんに、少しだけお話させてください。人によって適切な勉強法は異なると思いますので、以下は参考になる人だけ読んで頂ければ結構です。僕は高校入試や大学入試で毎回試験直前にメンタルが病んで1~2カ月勉強できないといったことがありました。その反省を生かし、大学院入試勉強では無理な勉強を徹底的に避けました。試験で最も大切なのは健康でいることです。頑張って勉強することはとても素晴らしいことですが、大学院で勉強するために院試で鬱になって勉強できなくなるなんて本末転倒ですよね。疲れたら休み、夜はしっかり寝て、やる気の起きない日は遊びに出かけるのもいいと思います。そして楽しく勉強しましょう!皆さんが希望する研究ができることを心より願っております。