入れ物としての詩ーゆるキャン△ED『ふゆびより』を考察する

注)この文章には以下の成分が含まれます。

・根拠の乏しい主張、及び筆者の直感

・テレビアニメ『ゆるキャン△』への情熱

・読者に対する無遠慮な言葉

これらのことを十分に理解した方はゆっくりしていってね

 

 詩とは入れ物なのではないか?中身は極力減らさなければならない。中身を入れるのは作者ではなく読者である。読者が中身を入れることで作品が完成する。読者が主体的に作品を作るのだ。作者は具体的な説明を避けて、説明するとしてもひとことだけだ。詩は短い。中身ではなく入れ物であるから。アニメのオープニング曲やエンディング曲(以下、OP、EDと省略する)を例に挙げてみよう。この場合中身はアニメの話だ。だから入れ物である歌を聞くとアニメの中身までも想像できる。そしてその中身を求めてアニメを見て、視聴者はアニメ制作者とともにOP、EDを作っていく。

 具体例としてゆるキャン△EDテーマ曲『ふゆびより』を二通りに考察してみよう。始めはアニメの中身を全く考えず、単なる詩として。表現法や場面、感覚に着目しよう。



1.額に感じる澄んだ空気 :触覚

2.吐く息が弾む

 

3.止まることもなく 歩き続けていたの :過去形によるカット(冬の屋外から忙しい現実へと場面変化)

4.ここで振り返る もうすぐだよ

 

5.朝日が昇る 私は旅する :対句、カットから戻る、視覚

6.新しい日に 自由を吸い込んだら :抽象と感覚の取り合わせ

7.あたたかい火を 囲んで座ろう :触覚、人物の登場

8.たわいもないこと 話しながら

 

9.鼻先に触れる木々の香り :1との対句、嗅覚

10.時間も忘れて

 

11.いつもの生活 やることがたくさんで :3と同じ、カットが入って日常へ

12.少し休んでも 大丈夫だよ :4と同じ

 

13.星が広がる 光が流れる :対句、カットから戻る、視覚、1~8が朝だったのに対し、10で時間が経過し、11~16までは夜。

14.優しい景色 心も包まれたら :抽象と感覚の取り合わせ

15.明かりを消して となりで眠ろう :視覚の退場、人物の登場

16.たわいもないこと 話しながら :8の反復。13~16は5~8に対応し、終わりが揃っていることでまとまりを感じる。

 

17.一人でいることの方が好きだった けれど :思想の展開

 

18.朝日が昇る 私は旅する :18,19は5,6の反復

19.新しい日に 自由を吸い込んだら

 

20.ゆるやかなとき 一緒に過ごそう :5,13に対応する。しかし5,13の一人称身体的感覚が、人と一緒に過ごすことに変化している。

21.君がいれば 自然と笑顔になる

22.ココアを入れて 写真も撮ろう :名詞「ココア」→味覚。あたたかくて甘い飲み物を想起。「君」との関係の比喩と読める?

23.知らない世界も 歩いてみよう :17の続き。一人よりも「君」といることを選ぶ?

 

24.たわいもないこと 話しながら :8,16の反復。統一感がある。



 ウーン、やっぱり名文だ。キャンプの中身にはほとんど触れないで、感覚と、「君」と一緒にいることの良さ、場面のカット、取り合わせの技法を盛り込んでたった24文だけで世界を作っている。中身にはほとんど触れていないのに冬に親しい人と焚き火キャンプに行って美しい自然に囲まれる優雅な時間を過ごしている気分になる。次はアニメに則して解釈してみよう。以下、『ゆるキャン△』Season1を観た人でないと伝わらないことをご承知ください。



1.額に感じる澄んだ空気 :2から考えるに1話。

2.吐く息が弾む :1話、リンが自転車で息を切らしながら本栖湖に向かうシーン。

3.止まることもなく 歩き続けていたの :作品中の描写はない。視聴者へのメッセージか。

4.ここで振り返る もうすぐだよ :視聴者を作品中へ引き込む。

 

5.朝日が昇る 私は旅する :朝日が昇るシーンは3話ふもとっぱらでのなでしこが富士山のかげから昇る朝日を見るシーン、12話クリキャンでみんなで朝日を見るシーンか。「私」はリン、「旅」はリンのソロキャンだろう。

6.新しい日に 自由を吸い込んだら :5の続き。「自由」の描写は作品中にはない。3,4で忙しない生活を送る視聴者へのメッセージか。

7.あたたかい火を 囲んで座ろう :(「囲む」から3人以上と推定)5話野クル初キャンプ、11,12話クリキャン焚き火。

8.たわいもないこと 話しながら :7の続き

 

9.鼻先に触れる木々の香り :(木々に囲まれるのはキャンプ回であるが、木々と10の時間の経過にフォーカスしているもののみ挙げる)1話リン本栖湖ソロキャンプ。

10.時間も忘れて :1話リン本栖湖ソロキャンプ中のリンが読書に耽っている間の自然描写。

 

11.いつもの生活 やることがたくさんで :3,4に同じ

12.少し休んでも 大丈夫だよ :同上

 

13.星が広がる 光が流れる :3話ふもとっぱらの夜、5話リン高ボッチソロキャンでの夜景となでしこ野クルキャンでの夜景写真交換、12話リンとなでしこが同じテントから頭を出して星空を眺めながら話すシーン。「光が流れる」は夜景の車の流れか?

14.優しい景色 心も包まれたら :13~16まで、5話の夜景写真交換の場面で解釈する。優しい景色とは別々の場所にいるけれども美しい景色を見て相手にも見せてあげたいという思い。写真を交換することで心も共有され、優しさに包まれる。

15.明かりを消して となりで眠ろう :実際は離れているが、「きっと、そらでつながってる」。心が共有されたことでとなりにいるかのように感じている。

16.たわいもないこと 話しながら :LINEのやりとり。

 

17.一人でいることの方が好きだった けれど ゆるキャン全話を通して、ソロキャンしかしてこなかったリンがなでしこと出会い二人でのキャンプや野クルメンバーとのクリキャンなどを経てグルキャン「も」同じくらい楽しいことに気づくという暗示。

 

18.朝日が昇る 私は旅する

19.新しい日に 自由を吸い込んだら

 

20.ゆるやかなとき 一緒に過ごそう :22から考えるに、20~24は12話クリキャンか。

21.君がいれば 自然と笑顔になる :「君」はリンからみたなでしこ。

22.ココアを入れて 写真も撮ろう :ココアを入れるシーンは12話クリキャンの鳥羽先生が目覚めて斎藤がココアを勧めるシーン、夜、動画を見ながらの焚き火。「みんなで」写真を撮るシーンはその前の斎藤のヘアアレンジ後。

23.知らない世界も 歩いてみよう :リンがグルキャンをすること。1話でなでしこがリンと出会ってキャンプを始めること。

 

24.たわいもないこと 話しながら :12話クリキャン夜。

 

 

 このように、アニメを見ることによって入れ物であった詩の中身を入れることができた。美しい自然に囲まれてリンがなでしこや野クルメンバーとキャンプをするシーンが思い浮かぶだろう。そして一旦アニメを見てしまえばこの歌を聴くだけでアニメの中身とその感動を思い出すことができる。

 詩という文学では作者が中身を述べず入れ物だけを提供することにより、読者、視聴者、映像制作者が自由に中身を入れることができる。詩が心を動かすのは、その共同制作により言葉そのもの以上の豊かな世界、二次創作が生まれるからではないだろうか。

 

あとがき)

以下は詩に関する論の展開はせず筆者の感動とゆるキャン△という作品への崇拝を綴るだけとなります。ご了承ください。

いやはや、『ふゆびより』をアニメに結びつけるとこんなに深いなんて知らなかったよ!二つ目の考察での13~16が5話のそれぞれのキャンプだと仮定すると、離れていても心はつながっている、っていうゆるキャン△のテーマの一つが表れていて感動した!今まで「光が流れる」は流れ星のことかと勝手に思ってたけど、高いところから見下ろす夜景と思えば納得がいく。それに「優しい景色」で景色が優しいってどういうことなんだと思っていたが、これも仲のいい友達に美しい景色を見せてあげたいっていう気持ちと捉えれば確かに優しいなぁ。現実の我々がこのアニメ世界に強く惹かれるのは、アニメ映像のリアリティはもちろん、4,5や11,12のように詩が作品世界の中だけにとどまるのではなく、現実の我々に向けた同情、共感によりハッとさせられるからというのも今思えばあったんだと思う。なんにせよ、アニメの映像、BGM、声、物語、OP&EDの全てが視聴者を引き込み、豊かな自然の中でキャンプをしているように感じさせていて大変すばらしい作品だと思う。これ以上の日常系アニメは世に出てこないでしょうなあ。