村上春樹「アフターダーク」

夏休みはあまり小説を読んでいなかったのと秋に入りメンタルが不安定になってきたのでメンタルの避難所として久しぶりに小説を読もうと思い、以前からよく読んでいて落ち着く村上春樹の小説を読もうと思った。本棚を見たら積読として置いてあった本書を見つけ、読み始めた。
複数のそれぞれ問題を抱えた登場人物が関わりあって1夜を過ごす様子を、読者の視点を誘導して描く話。
危険組織から身を隠すためラブホで働くコオロギ(人物)の「人間は大事なことであれしょうもないことであれ記憶を燃料にして生きている」という話に興味をもった。僕が精神の燃料にする傾向が強いのは未来への希望であり、記憶ではなかったからだ。受験で模試の判定結果が悪かったり過去問を全然溶けなかったりして精神が病むのは、将来の不安が強くなりすぎてこのままではダメだと思うからだ。逆に明日は楽しいことが待っている、これから先もずっと楽しいだろうと思うと元気がみなぎってくる。そうやって精神を保っているようだ。コオロギ、そして村上春樹はそうではない。今がつらい、そして将来の希望が見えない時でも、過去や記憶の中には良かったことだって沢山あるはずだ。それを思い出すことでじんわり温かい気持ちになれる。そうやって自分を元気づけているのだろう。
やはり村上作品は日常系というか、起承転結がはっきりしてて絡まっていたものがほどけて解決!という感じじゃなくて絡まったものは絡まったまま進んでいって広がって薄まって終わる感じがする。だから解決しなきゃいけない使命感・義務感に囚われなくていいし、話に展開がないから早く先を知りたいという焦燥感もあまり感じなくてマイペースに読めるのが良い。